東京地方裁判所 昭和40年(ワ)9515号 判決 1967年12月11日
原告 小松源逸
右訴訟代理人弁護士 西園寺正雄
同 若菜允子
被告 松田悦一
被告 佐藤台太郎
右被告両名訴訟代理人弁護士 菊池博
同 小原美直
主文
被告らは連帯して原告に対し大和ハウス工業株式会社株式五、七九〇株分の株券を引渡し、かつ金二、七一五円の支払いをせよ。
被告らに対する前項の株券の引渡し請求が執行不能となったときは、被告らは連帯して原告に対し、執行不能となった株式一株につき金一一六円の割合による金員の支払いをせよ。
原告の各被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。
この判決は、原告が被告両名に対して金二〇万円の担保を供するときは、主文第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
(一) 原告
「一、被告らは原告に対し連帯して大和ハウス工業株式会社株式七、〇〇〇株を引渡せ。二、被告らが前項株式の引渡ができないときは、被告らは原告に対しその引渡のできない株式一株につき金一一六円の割合による金員の支払いをせよ。三、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。
(二) 被告両名
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。
第二、当事者の主張
(一) 原告の請求原因
一、昭和三六年七月三一日、原告は、当時被告松田が代表取締役であった株式会社日東工業(以下「日東工業」という)に対し、原告所有の大和ハウス工業株式会社(以下「大和ハウス工業」という)一〇〇株券七枚(一株の額面金額五〇〇円)(以下一括して「本件株券」という)を、同年八月一五日限り本件株券そのものを返還するという約束で貸与し、被告松田は、右貸借に基く日東工業の一切の債務を連帯して保証することを約した。
二、昭和三六年一〇月三〇日、被告佐藤は原告に対して、右貸借に基く日東工業の本件株券の返還に関する債務につき、右会社、および被告松田と連帯してその責に任ずることを約した。
三、昭和三七年一月末から同年三月初頃までの間に、原告と日東工業の代表者である被告松田との間で、本件株券そのものを原告に返還するという約定を変更し、大和ハウス工業の株式七〇〇株の株券を返還すればよいことと約定した。
四、昭和三七年一二月、大和ハウス工業は、その株式一株の額面五〇〇円を五〇円に変更した。
五、よって、原告は被告らに対して、連帯して大和ハウス工業の株式七、〇〇〇株の株券の引渡しを求める。
六、もし被告らが原告に対し右株式七、〇〇〇株の引渡ができないときは、原告は被告らに対して、その引渡に代えて本件口頭弁論終結の日である昭和四二年九月二七日における大和ハウス工業の株式の時価相当額である一株につき一一六円の割合による金員を連帯して支払うことを求める。
(二) 原告の請求原因に対する被告松田の答弁
請求原因第一項の事実のうち、本件株券の返還期限を昭和三六年八月一五日と約定したということは否認するが、その余の事実は認める。本件株券はおって返還するという約束、すなわち、返還の期限については、定めのないものであった。同第三項の事実は否認する。同第四項の事実は知らない。
(三) 原告の請求原因に対する被告佐藤の答弁、
請求原因第一項の事実は知らない。同第二項の事実は認める。同第三、四項の事実は知らない。
(四) 被告松田の抗弁
一、日東工業が原告から本件株券を借受けたのは、当時日東工業が増資を計画しており、原告は右増資新株額面一、〇〇〇、〇〇〇円を引受けることを承諾したが、その払込資金の手持ちがなかったので、日東工業が本件株券を借受けたうえで、これを担保として他から金員を借入れ、これで右の原告引受の増資新株、および被告松田が引受ける増資新株の払込みをし、後日、原告がその払込金相当額を被告松田に交付したときに、被告松田が各借入金を一括弁済して、担保に供した本件株券を取戻し、これを原告に返還するという約束に基いたものである。そして、被告松田は、右の約束にしたがって、日東工業が借受けた本件株券を担保として上田工務店から金員を借受け、これを日東工業の増資新株の原告、被告松田引受分の払込みに充てた。ただし、原告の引受分は当初は前記のとおり一、〇〇〇、〇〇〇円であったが、後に五〇〇、〇〇〇円に変更されたので、五〇〇、〇〇〇円を原告名義で払込み、昭和三六年一一月頃、日東工業の券面額十万円の株券五枚を原告に交付した。しかるに、原告が右の原告の払込金相当額を被告松田に交付しないので、被告松田が上田工務店に借入金の弁済をしないでいたところ、本件株券が処分されたらしいのである。したがって、本件株券を原告に返還できなくなったことについては原告にも責任があり、少くとも、本件株券のうち被告松田が上田工務店から借受けた金員のうち五〇〇、〇〇〇円の担保に相当する分については、その返還ができなくなったことについて被告らに責任はない。
二、昭和三七年一月頃、被告松田と原告との間において、本件株券自体を原告に返還するという約定を変更し、現金の支払、その他の方法をもって本件株券自体の返還に代えるという約束が成立し、被告松田は、同年二月、第一回分の返済として、昭和三七年二月に現金三五〇、〇〇〇円を、第二回分の返済として同年五月に金額一五〇、〇〇〇円、二四〇、〇〇〇円、二二〇、〇〇〇円合計六一〇、〇〇〇円の約束手形三通を、被告松田より原告に交付した。
(五) 被告松田の抗弁に対する原告の答弁
一、抗弁第一項の事実のうち、被告松田が本件株券を担保として上田工務店から金員を借受けたということは知らない。その余の事実は否認する。本件株券は、日東工業の増資新株引受のため被告松田が払込むべき一、五〇〇、〇〇〇円を調達するために貸与したものであり、かつ右増資はいわゆる見せ金による増資で、払込金は払込後間もなく返還されるので、本件株券も払込資金借受先へ見せるだけであり、間もなく返還できるということで貸与したのである。
二、抗弁第二項の事実のうち、昭和三七年二月に原告が被告松田から三五〇、〇〇〇円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。右三五〇、〇〇〇円は、昭和三七年三月一日に大和ハウス工業が倍額増資することとなり、原告にも七〇〇株額面合計三五〇、〇〇〇円の増資新株が割当てられることになったので、右株式の払込資金として借受けたものである。
第三、証拠関係<省略>。
理由
(一)、(二)、(三)、(四)<省略>。
(五) そこで、被告松田の抗弁について判断する。
(1) <証拠省略>を合わせて考えると、昭和三六年七月当時、日東工業はその資本の額を三、〇〇〇、〇〇〇円から一〇、〇〇〇、〇〇〇円に増資することを計画していたが、増資新株の一部について引受人がなく、また代表者である被告松田には、その引受希望の新株の払込資金がなかったところから、日東工業の増資新株の払込金に充てるべき約一、五〇〇、〇〇〇円を他から借入れるための担保とするために本件株券の貸借が行われたこと、被告松田は日東工業の取引先である上田工務店を介して、本件株券を担保として他から金員を借受け、これを日東工業の増資新株の払込金に充たこと、右借受金が返済されなかったので、本件株券は担保権者によって昭和三七年三月中に売却されてしまったことが認められる。しかしなが、ら被告松田本人の、原告は日東工業の増資新株五〇〇、〇〇〇円を引受け、本件株券を担保とする借入金の内から右引受新株の払込をすることを承諾したのであり、かつ本件株券を担保とする借受金のうち五〇〇、〇〇〇円が原告名義で日東工業増資新株の引受けとして払込まれ、その株券も、原告に交付された旨の供述は、<証拠省略>に照らして考えると、これのみをもって右供述どおりの事実を認めるに十分ではなく、他に右供述のような原告の日東工業増資新株の引受、その払込金調達方法についての承諾、原告名義による払込のあったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の事実を前提として、本件株券の少くとも一部については、その返還が不能となったことについて被告らに責任はないという被告松田の抗弁は採用できない。
(2) 昭和三七年二月に被告松田が原告に対して、本件株券返還の代償として三五〇、〇〇〇円を支払ったことは前記(四)に認定したとおりである。ところで、右三五〇、〇〇〇円の支払いをもって本件株券のうち何株の返還に代えるものであるかについて特段の合意が成立したことについて何も主張、証拠がない以上、右金員の支払いがなされた当時における大和ハウス工業の株式の価格によって換算された数の株券の返還に代えられたと解するのが相当であり、昭和三七年二月の大和ハウス工業の株式一株の平均価格が二、九一五円(円未満四捨五入)となることは、当裁判所に顕著な事実であるから(証券取引所に上場されている株式の価格が、通常の日刊新聞に掲載されていることは顕著な事実であり、昭和三七年二月一日から同月二八日までの、東京証券取引所における大和ハウス工業株式の後場終値は別表第一記載のとおりである)、前記の被告松田から原告に対して支払わた三五〇、〇〇〇円は、大和ハウス工業株式一二一株の株券の返還に代えられた(但し、二七一五円不足)ものということができる。したがって、被告らの原告に対する大和ハウス工業株券の返還債務は、右の株数の限度においては、消滅したといわなければならない。
(3) 被告松田は、昭和三七年五月に本件株券返還の代償として、原告に対して金額合計六一〇、〇〇〇円の約束手形三通を譲渡したと主張するが、右主張にそう被告松田本人の供述は、<証拠省略>に照らして考えるとたやすく信用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠がないのみでなく、かえって<証拠省略>によると、右約束手形三通は石躍のもとに保管されたまま不渡りとなり、その支払いがなされなかったことが認められるから、被告松田の右抗弁は採用できない。
(六) <証拠省略>によると、大和ハウス工業の株式一株の額面は、現在五〇円に変更され、従前の額面五〇〇円の株式一株は、現在十株の株式となっていることが認められる。
(七) 本件口頭弁論終結当時の大和ハウス工業の株式一株の価格が一一六円(昭和四二年九月一四日から同月二六日までの、東京証券取引所における大和ハウス工業株式の後場終値は別表第二記載のとおりであり、その平均価格)であることは、当裁判所に顕著な事実である。
結論
以上のとおりであるから、原告の被告らに対する株券引渡請求を、大和ハウス工業株券五七九〇株分の引渡し、および前記の不足額二七一五円の支払いを求める限度において、株券の引渡しが執行不能となった場合の代償請求を、引渡しの執行不能となった株式一株分について一一六円の支払いの求める限度において、それぞれ認容し、その余の請求はいずれも棄却することとし、<以下省略>。